ドクターブログ

アクティブエイジング 歯を残す重要性

 わが国では,隔蝕や歯周病の予防・ケアに関する知識が普及し,患者の口腔環境維持に対する意識は向上しています。平成元年から8020運動が開始され,平成23年には約40%近い後期高齢者が8020を達成していることも報告されています。
 一方で超高齢社会に突入した現在,平均寿命と健康寿命の間にある約10年という大きな時間差が問題視されている.健康寿命を延ばすため,高齢者の社会参画を促し健康を持続させるアクティブ・エイジングの考え方が展開されており,健康を持続させる重要な要素の一つとして「美味しく食べる」ことが挙げられます。また,経済誌のリサーチによる男女シニア1,000人に対する意識調査「リタイア前にやるべきだった後悔トップ20」(健康編)では「歯の定期検診を受ければよかった」が回答の第1位となっています。
 わが国でアクティブ・エイジングの展開とともに健康寿命の延仲が達成されるうえで,歯科医師の役割がきわめて重要であることを改めて認識させてくれます。歯科医師の役割は,良い口腔環境作りをサポートすることと考えます。そして,良い口腔環境を作るためには,シニア世代・高齢者にかぎらず,すべての世代・年齢層に対して「歯・歯髄を保存」する歯科医療を実践することが重要です。
 歯科医療はキュアからケアに,侵襲的治療から予防・メインテナンスによって健全な状態を維持するという考え方にシフトしていますが,いったん予防が破綻し扇蝕などの疾患が生じると,切削治療を行うことになります。現在ではMI(Minimal lntervention)の概念に基づき,「削って詰める,だめなら抜歯して義歯」という古い考え方から「できるだけ歯を削らず歯髄を保存する」という考え方に移行していますが,実際に歯・歯髄を保存できるか否かは,歯科医師の判断と技術に大きく左右されます。
 歯髄と窩洞との間に十分な健全象牙質が存在すれば,コンポジットレジン修復等を確実に行うことで審美的に機能を回復するとともに歯髄を保護できます。判断に迷うのは歯髄に感染等のダメージがどの程度及んでいるのか判断できない,覆髄か抜髄かの選択に迷う症例です。暫間的間接覆髄が奏功し,修復象牙質の誘導により歯髄を保護できればよいのですが、しかしながら,感染歯質除去後の露髄が大きい場合,患者の訴える症状は軽微だったので直接覆髄したけれど結果的に鈍痛等の症状が出て根管治療を行った,あるいは予後がはっきりしないので最初から抜髄を選択した,という経験を多くの歯科医師がもっているでしょう。
 抜髄や感染根管治療といった歯内治療の予後は,歯科医師の意識と技術に大きく影響されます。
歯髄保存療法や歯内治療には限界があるという前提で治療を進める必要がある.加えて,歯髄保存療法や歯内治療は根本的に「待つ治療」であることを認識しておかないといけません。歯髄保存療法では,客観的に歯髄の状態を診断できないので,歯科医師は知識と経験に基づいて歯髄保存を決断し,その後は歯髄が失活しないことを願い修復象牙質が形成されるのを待つしかない.抜髄や感染根管治療では,根尖歯周組織の状態を定量的に判断できないので,根管形成・洗浄・貼薬を徹底的に行って環境を整えた後は,根尖歯周組織が治癒するのを待つしかない.待ったうえで,歯髄あるいは根尖歯周組織が治癒に向かってくれない場合は,諦めて次ステップの治療(抜髄あるいは抜歯)を行う.
 現在,このような歯の治療における限界を克服するために世界中で診断法・治療法に関するさまざまな研究・開発が進んでいます。



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